「新聞の読み方」(岸本重陳)

…と書いておいて何なのですが…、

「新聞の読み方」(岸本重陳)
 岩波ジュニア新書

「新聞の読み方」岩波ジュニア新書

なぜ新聞を読むべきなのか。
新聞はおもしろい。そして
テレビのニュースだけでは、
あなたの必要は満たせない。
新聞を広げれば、
そして新聞をよく読めば、
そこにあなたは、
自分の高校を、
自分の大学をつくりだすことが
できます…。

NIEという言葉を
聞いたことがありますか?
「Newspaper in Education」の
略であり、学校などで
新聞を教材として活用したり、
新聞づくりを行ったり、
メディア・リテラシーを学んだりする
活動の総称を指しています。
学校での指導の役に立つかもしれないと
思って購入した本書です。

何かの役に立てようと
思わない方がいいのかもしれません。
楽しく読むことができました。
出版年は1992年、
30年以上前の本です。
書かれてある事実は古びているものの、
筆者の言いたいこと・伝えたいことは、
令和の現代において
十分な鮮度が保たれています。

〔本書の構成〕
はしがき
Ⅰ 新聞の読みかたガイド
Ⅱ あなたに情報は必要ないか
Ⅲ 新聞記事はおもしろい
Ⅳ 新聞のしくみ
Ⅴ 感想文を書くために
 あとがき
※詳しくはこちらから(出版社HP)

本書の味わいどころ①
記事の着目点がよくわかる

新聞は活字ばかりでどこから
読めばいいのかよくわからない。
子どもたちはよくそういいます。
その通りだと思います。
筆者は「Ⅰ 新聞の読みかたガイド」
「Ⅱ あなたに情報は必要ないか」に
おいて、記事の着目点について、
子どもたちが「よくわかる」ように
解説しています。
「関心のピントを合わせる」
「自分の暗証番号をつくる」
(ここでいう「暗証番号」とは
「キーワード」的な意味合い)といった
方法は、新聞の読み方以外にも
応用できるものがあり、
読み応えがあります。

本書の味わいどころ②
報道のウラ側がよくわかる

新聞は堅苦しいばかりで面白くない。
子どもたちはよくそういいます。
その通りだと思います。筆者は
「Ⅲ 新聞記事はおもしろい」において、
報道のウラ側を紹介し、
新聞紙面には実はこのような面白さが
潜んでいるということを、
過去の実例を挙げ、それこそ
「面白おかしく」紹介しています。
この部分を折に触れて読むだけでも
本書を十分に
味わうことができるでしょう。

本書の味わいどころ③
新聞のしくみがよくわかる

新聞はどうやってつくられているのか
わからない。
子どもたちがそういうことは
めったにありません。
でもそれを聞かれたときに
スムーズに答えられる大人でありたいと
思いませんか。
筆者は「Ⅳ 新聞のしくみ」において、
最前線の記者の仕事から始まり、
それを完成させる編集者の役割、
さらには新聞広告や
定期購読制度のしくみまで、
懇切丁寧に説明しています。
これを読めば、新聞はより一層
身近なものに感じられるはずです。

というわけで、本書は
「高校生の年齢の人に読んでほしい」との
筆者の願いが込められているのですが、
当然大人が読んでも愉しめます。
ぜひご一読を。

と書いておいて何なのですが、
私自身は最近、新聞を読むことは本当に
必要なのかと疑問に感じています。
いや、必要ないのではないかと
言いたいくらいです
(断っておきますが、
本などの活字を読むことは
非常に重要だと思っています)。
学校現場にいたために、無批判のまま
「新聞を読むことは大切だ」と
思い込んできたのではないかと
反省しています。

現代は本書の書かれた時代と異なり、
ネットが登場しています。
教育関係者は口を揃えて
「ネット情報は真偽が確かではない」
「ネット情報は特定の意図を持って
発信されている可能性がある」
「ネット情報では
伝えられていないものがある」、と
ネット情報の不完全さを指摘し、
だから新聞を読め、と
子どもたちに指導しているのです。
でも、そうしたネット情報の弱点は、
そのまま新聞にも
当てはまるのではないかと思うのです。

「朝日新聞による従軍慰安婦」記事は、
新聞による世紀の大誤報でした。
本書でも指摘されている
「記者クラブ制度」(官公庁から
メディアに画一化した情報を流す
システム)によって、
官公庁は有利な情報を
一方的に流せる状況下では、
情報操作が皆無とは言い切れません。
「日本人の賃金の相対的な低下」に
ついては、
新聞は30年間気づかずにいたのか、
それとも気づいていて隠していたのか、
不信感を抱かれても
仕方のない状況です。

そして現代の子どもたちが、成人し、
独立して生活を始めたとき、
新聞を定期購読する割合が
果たしてどのくらいあるのか?
ほぼ皆無でしょう。
だとすれば、私たちが心がけるべきは
「ネット情報の正しい活用のしかた」で
あるはずです。

冒頭に記したとおり、
現在学校現場では「NIE」が
合い言葉のようになっていて、
新聞をいかに活用するかが
求められています。
そしてそれが、
過重な負担の一つとなっているのです。
子どもたちに本当に必要なものであれば
そうした負担も致し方ないと思います。
しかし教育現場が
新聞社の利益誘導の手先的に
使われている現状は
腹立たしさを覚えます。

新聞は万能ではない。
不完全な存在である。
そうしたことは、実は
本書の端々に書かれているのです。
筆者の意図とは
逆行することになるのですが、
「新聞」の在り方を
見直す時期にきているのではないかと
考えざるを得ません。

(2024.4.22)

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