「千鳥(作品集)」(鈴木三重吉)

まるで暗号を読み解くかのような

「千鳥」(鈴木三重吉)岩波文庫

「千鳥」岩波文庫

夏に避暑に訪れて以来、
二度目となるある小さな島へ
やってきた「自分」。
逗留先の
小母さんの家に上がると、
夏にはいなかった
少女・お藤さんがいた。
彼女とは以前からの
知り合いのように
接することができた。
しかし彼女は二日後…。
「千鳥」

鈴木三重吉の作品集
「千鳥」を読了しました。といっても、
それぞれ数回ずつ読み返しているので、
何度「読了」したか
分からないくらいです。
それだけ魅力的な作品集です。
収録されている五篇は
すべて初期作品であり、
処女作「千鳥」から、
発表順に並べられています。

〔「千鳥 他四篇」〕
千鳥
山彦
おみつさん
烏物語
黑髮

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その処女作「千鳥」のテーマは
「実らぬ恋」なのでしょう。
詳しい事情の一切は記されず、
というよりも、
あえてそれを語ることを避けながら、
主人公・「自分」視点で
淡々と綴られていきます。

私が戀をした女は
おふさと言つた。
おふさが船は
酒、煮肴、壽司などを
賣つてゐた。
大きな浦へ着けた時には、
おふさが船は石崖の上に
蓆の小屋を建てた。
濱の若者等はそこへ來て、
夜更けるまで清酒を飲んだ。
母親は三味線が彈け…。
「黑髪」

「千鳥」と同じく
「実らぬ恋」を描いた作品は、
第五作「黑髪」でしょう。
恋に落ちた「わし」とおふさの二人は、
それぞれの両親が認めるはずがないと
思い込んでいるうち、
おふさの態度がよそよそしくなります。
ある夜、おふさの父親が「わし」を呼び、
「お前をおふさと添はせて一緒に
よそへ遁してやる」というのですが、
同時にこう告げます。
「おふさは腹を氣にして自害した」。

文庫本にしてわずか十頁の掌編です。
しみじみとした味わいに満ちています。

病身の姉を訪ねた「自分」は、
その山間の村で
五日間の夏を過ごす。
奥の間の天井裏から偶然
一束の古い手紙を
見つけた「自分」は、
姉にも告げずにそれを隠れ読む。
その手紙は、
ちゑという娘から民という青年に
宛てられた恋文だった…。
「山彦」

「実らぬ恋」を、直接的な表現ではなく、
暗示させながら描いた作品が
「山彦」です。
古手紙の「民」なる青年が、
何らかの事情で「ちゑ」という娘を
遠ざけなければならなかったことが、
その手紙には示されています。
決して実ることのない恋。それを
「他家へ嫁いだ」「病身の」「肉親」の、
三重の壁の立ちはだかる「姉」という
女性とのひとときの繋がりとして
描いたと考えられます。

小さい自分は、
何の譯も知らなかつたゆゑ、
仄白い水に臨んだ、
生絲を取る古里に、
母の伯母の家を
自分の家のつもりでゐた。
それは、五六本の榎の大木が、
門の内を
古い代の色に薄暗くした、
大きな構への家であつた。
これを自分の…。
「烏物語」

「実らぬ恋」を、さらに
遠回しに描いたのが「烏物語」です。
「自分」の父母はかつて
激しい恋に落ち、それが
許されざる立場の二人であったため、
父親は遠国に身を引き、
「母」は伯母の家に「閉じ込められ」、
そこで「自分」を産み落としたことが
暗示されているのです。
白かったはずの烏の身体が、
仲を引き裂かれた悲しみによって
黒く変わってしまったのと同じように、
「母」もまた悲しみが身体を蝕んでいった
(描かれている場面の翌年、病没)と
考えられるのです。

ここまでの四作品と趣が異なるのが
「おみつさん」です。
母親と死に別れ、
祖母と暮らしている少年「自分」
(=「丁さん」、おそらく小学生くらいの
年齢と考えられる)が、
かつて近所に住んでいて、
よく面倒をみてもらっていた
年上のお姉さん「おみつさん」と
再会する、
おみつさんのような人がうちに
来てくれればいいな、と考えていたら、
本当におみつさんが家族になる、
という、いたって分かりやすい
筋書きの作品です。

「丁さん」と、誰だか、
白粉を附けた若いをばさんが、
塵取を提げて出て来る。
「丁さんでがんせうがの。
まあまあすつかり見違へた。
こつちへおいで丁さん。
あたしぢゃのに。
もうあたしをお忘れたか。
ほほほ別つたの?」と
嬉しさうに…。
「おみつさん」

この「おみつさん」以外の作品は、
描かれている表面の奥底の部分に、
作者の本当の思いが
包み込むように隠されています。
まるで暗号を読み解くかのような
難しさを感じるのですが、
またそれも味わいの一つです。

児童雑誌「赤い鳥」を創刊し、
児童文化運動を推進するとともに、
多くの童話や児童文学を書き上げた
作家・鈴木三重吉。
児童文学という
わかりやすい作品を書き上げる一方で、
何度も読み味わわなければ
その深奥に触れることの叶わない小説を
いくつも書き上げているのです。
珠玉のような初期作品集、
ぜひご賞味ください。

(2024.3.21)

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