「蟲」(江戸川乱歩)

あまり味わいたくはない種類のものですが。

「蟲」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第5巻」)光文社文庫

「江戸川乱歩全集第5巻」

厭人病者の柾木は、友人・池内に
人気女優・木下芙蓉を
紹介されるが、彼女は
初恋相手・文子だった。
自らの想いを
伝えようとする柾木を、
彼女は無惨に笑い飛ばす。
彼女への所有欲を
押さえきれなくなった柾木は、
ある計画を実行する…。

江戸川乱歩の中篇小説であり、
乱歩特有のグロテスクな面が
強力に押し出された
作品となっています。
雑誌の予告の段階では
「蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲
 蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲
 蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲」

というようなタイトル
(自作解説を読む限り、
蟲を何個並べたのか、乱歩自身も
よくわかっていないような感じ)
だったらしいのですが、
最終的に「蟲」となりました。

〔登場人物〕
柾木愛造

…親の遺産で生活している厭人病者。
 自宅の土蔵に引きこもっている。
木下芙蓉
…人気女優。本名・木下文子。
 柾木の初恋の相手だった。
池内光太郎
…柾木のたった一人の友人。
 柾木を見下している。芙蓉の恋人。
 社交的な性格。

本作品はトリックも謎解きもなく、
柾木の視点から芙蓉殺害の顛末を描いた
犯罪小説です。
したがって柾木の異常すぎる行動こそ、
本作品の
味わいどころとなっているのです。
あまり味わいたくはない
種類のものですが。

本作品の味わいどころ①
異常性格・ストーカーの先駆け

物語前半は柾木の異常行動、
特に芙蓉に対するストーカー行為が
見物です。
ストーキングは平成の時代に入って
問題視されてきたのですが、
実は昭和初期の段階で
すでに乱歩が創りだしていたのです。
柾木はまさにストーカーの
先駆け的存在といえます。
ただし平成のストーキング行為とは
異なり、本人に気づかれないような
つきまといです。

芙蓉が池内と逢い引きをする、
その一部始終を二人に
気づかれないようにつきまとい、
そして二人の行為を
覗き見ているのです。
昭和初期の
襖張りの逢い引き宿だから可能な
ストーキング行為、
現代の一歩上を行っています。
この異常性格者・柾木の
異常すぎる行動こそ、
本作品の第一の
味わいどころとなっているのです。
あまり味わいたくはない
種類のものですが。

本作品の味わいどころ②
死体の腐乱との激しい格闘

後半部は、芙蓉殺害後の、
その屍体を弄ぶ柾木の
さらなる異常行動が描かれます。
当初はすぐに遺棄・隠蔽する
予定だったのが、
芙蓉の死体の艶めかしさに魅せられ、
それを一分一秒でも
長く味わいたいと願うのです。
当然、遺体の腐乱との
激しい格闘となるのです。

死後硬直、死斑の表出、防腐剤の注入、
腐乱による遺体膨張など、
これでもかというくらい
描かれていきます。
ここまで書くのはいかにも乱歩。
饐えた腐卵臭まで
漂ってくるかのような描写こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
あまり味わいたくはない
種類のものですが。

本作品の味わいどころ③
過激すぎて伏せ字と削除の連続

その描写は激しさとえげつなさの
一途をたどり、
ついには伏せ字と削除の
オンパレードとなっているのです。
「顔全体が苦悶の表情を
 示していたのに、その表情は
 (二十一字削除)
 今彼女は、聖母の様に
 きよらかな表情となって…」
「若し芙蓉のこの刹那の姿を
 永遠に保つことが出来たら、
 そして、○○○○○○○○○○○、
 ○○○○○○○○○○○
 ○○○○○○○していられたら。
 叶わぬことと知りながら、
 彼は果敢ない願を捨て兼ねた」

そこにどんな文章が書かれていたのか?
あらぬ想像ばかりが溢れ出てきて、
自己嫌悪に陥ること間違いなしです。
その伏せ字と削除の向こうに隠れている
乱歩の激しすぎる描写を
想像することこそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
当然、あまり味わいたくはない
種類のものですが。

乱歩を味わうとは、
こういうことなのだと
思い知らされるような一篇です。
怖いもの見たさにいかがでしょうか。
あまりお薦めしませんが。

(2024.4.12)

〔青空文庫〕
「蟲」(江戸川乱歩)

〔「江戸川乱歩全集第5巻」〕
押絵と旅する男

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〔光文社文庫「江戸川乱歩全集」〕

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