「甚七南画風景」(坪田譲治)
行間から浮かび上がる作者の「願い」 「甚七南画風景」(坪田譲治)(「百年文庫043 家」)ポプラ社 甚七老人は齢八十で、楽しみは方々を見物して廻ることであった。遠いところではない。八十年の生涯に記憶に残る近くの石橋である...
行間から浮かび上がる作者の「願い」 「甚七南画風景」(坪田譲治)(「百年文庫043 家」)ポプラ社 甚七老人は齢八十で、楽しみは方々を見物して廻ることであった。遠いところではない。八十年の生涯に記憶に残る近くの石橋である...
美は即ち滅び、その美学、谷崎潤一郎の世界 「創造」(谷崎潤一郎)(「潤一郎ラビリンスⅩⅣ」)中公文庫 「男が女から妖艶な柔かみを借りて来た時、始めてほんとうの美しさを発揮するのさ。人間に純粋の男や女がないと同じく、その肉...
本作品は大人の「恋」の物語です。 「春の雁」(吉川英治)(「百年文庫034 恋」)ポプラ社 「清吉さん、このお金の費い途がついたら、わたしを連れて、すぐ江戸を立ってくれますか」自分の胸だけで、もう決めていたような口吻だっ...
権力者にとっては兵卒など駒の一つにすぎない 「雪のシベリア」「氷河」(黒島伝治)青空文庫 同年兵が内地へ帰還するというのに、吉田と小村の二人は残留し、兵役が一年延長されることになった。よく働いていればその報いとして早く帰...
テーマは「隣」、でもふさわしいのは「貧」 「百年文庫079 隣」ポプラ社 「駄菓子屋 小林多喜二」「あっつくたら子供にまで馬鹿に……され……るなんて……」お婆さんは興奮して泣き出した。健は何んとも云わずに内へ入った。「な...
私も、「前途有望な少年」であったのだ! 「黒い御飯」(永井龍男)(「教科書名短篇 家族の時間」) 中公文庫 「黒い御飯」(永井龍男)(「朝霧・青電車その他」) 講談社文芸文庫 小学校も卒える事が出来ずに、小さい時から工場...
味わいどころは三つの「暴露」 「The Affair of Two Watches」(谷崎潤一郎)(「潤一郎ラビリンスⅢ」)中公文庫 「つまらんさ!そんな事をしたって!其れよりは多勢引っ張って行ってウント牛肉でも食わして...
生き続け成長し続ける雑草に自らを見立て 「草のいのちを」(高見順)(「百年文庫038 日」)ポプラ社 「草のみずみずしい緑を眼にすると、君も心持ちが変るだろう。きっと変る。君は君の生命を、君の生をいとおしく大切に思うよう...
怪盗ルパン、縦横無尽の面白さ! 「813」「続813」(ルブラン/堀口大學訳)新潮文庫 欧州全体の運命に関わる「機密」を握っていた大富豪ケッセルバック氏が、何者かに刺殺される。その犯人と目されたのは、怪盗紳士アルセーヌ・...
この様な作品が生み出されていたこと自体が奇跡 「古譚」(中島敦)(「中島敦全集1」) ちくま文庫 詩人を志した李徵は、その道に挫折し、発狂する。そしてついには闇の中へ消え、その姿は虎に変化する。一年後、明け方に通りかかっ...