「黒猫亭事件」(横溝正史)

金田一耕助の事件簿008

戦後の東京を舞台とした「ドスぐろい」犯罪

「黒猫亭事件」(横溝正史)
(「本陣殺人事件」)角川文庫

「本陣殺人事件」角川文庫 平成31年版表紙

東京G町で、腐乱した女性の
全裸遺体が発見される。
被害者は付近の酒場「黒猫」の
マダム・お繁と思われた。
容疑者として「黒猫」の
マスター・糸島が浮上する。
しかし彼には鮎子という
愛人がいることが分かる。
殺されたのはいったい…。

横溝正史の描く
金田一耕助シリーズの短篇作品です。
金田一ものは、
瀬戸内や諏訪を舞台とした
因習深さを生かした作品と、
東京を中心とした
戦後の都会の闇を描いた作品と、
大きく二つに分けることができますが、
本作品は後者にあたります。

【事件簿File-008「黒猫亭事件」】
〔事件発生〕
昭和22年3月(東京)
〔依頼人〕
風間俊六
…土建業・風間組親分。
 金田一のパトロン。金田一とは同窓。
〔捜査関係者〕
長谷川巡査
…G町派出所勤務の警察官。
村井刑事…所轄暑刑事。
〔事件関係者〕
糸島大伍
…G町酒場「黒猫」マスター。
糸島繁
…大伍の妻。「黒猫」マダム。
 風間俊六の愛人。
お君・加代子・珠江
…「黒猫」店員。
桑野鮎子
…ダンサー。大伍の愛人。
小野千代子
…大伍とともに
 中国から引き揚げてきた女。
江藤為吉
…「黒猫」改装工事請負業者。
池内省蔵
…「黒猫」新経営者。
松田花子
…戦前に夫を殺し出国。
日昭
…蓮華院住職。
日兆
…蓮華院僧侶。無口。
 変人で通っている。
〔事件記録者〕
Y
…探偵作家。昭和21年、
 疎開先の岡山で金田一と出会う。

created by Rinker
¥682 (2024/05/05 10:04:34時点 Amazon調べ-詳細)
今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
「顔のない屍体」の謎解き

全裸の腐乱死体の意味するところは
「身元不明」、
殺されたのが誰なのか
分からないということなのです。
横溝作品には、
首を切りおとされた屍体だの、
顔だけ激しく損傷した屍体だのが
常に登場するのですが、
本作品はそうした奇をてらわずに
ただの「腐乱死体」です。
実はここにも作者・横溝の
緻密な計算が隠されています。

本作品の味わいどころ②
黒猫の屍体は何を隠す?

動物の屍体も
横溝作品にはいくつか見られます。
本作品も、黒猫の死体には
ある事実を隠そうとした狙いが
あるのです。
なお、黒猫が人間の屍体とともに
埋まっているのは
ポーの「黒猫」へのオマージュとも
考えられます。

本作品の味わいどころ③
金田一耕助の危ない活躍

同時期に書かれ、
本書「本陣殺人事件」に本作品とともに
併録されている「車井戸はなぜ軋る」は、
金田一がまったく
活躍しない作品でした。
本作品は、
後半からは金田一が前面に出て、
事件を解決します。
推理というよりは
「合理的な推測」というべき点も
散見されるのですが、
そこはご愛敬としましょう。
注目すべきは金田一が
凶悪な犯人の面前に
立ってしまったことでしょうか。
危なく落命し、
金田一シリーズが三作で
終わってしまうところでしたが、
依頼主であり、
その後のパトロン・風間俊六の登場で
命拾いをするのです。

本作品の味わいどころ④
金田一とY先生の出会い

横溝作品のいくつかには、作者自身が
作家・Y先生として登場します。
本作品は金田一と
「作中での作家・横溝」との
出会いの場面が記されていて、
シリーズ愛好家としては
見逃すことができません。

なお、本作品の記述と、
「本陣殺人事件」「百日紅の下にて」
「獄門島」「車井戸はなぜ軋る」での
出来事を総合して
金田一耕助の足どりをたどると、
以下のようになりそうです。
①「本陣殺人事件」:昭和12年
②金田一、戦争へ応召
③金田一、復員。東京へ向かう。
 「百日紅の下にて」:昭和21年。
 解決後、その足で獄門島へ向かう。
④島に渡る前に久保銀三宅へ立ち寄る。
 Y氏の書いた
 小説「本陣殺人事件」を知る。
 雑誌社へY氏の住所を尋ねる。
⑤獄門島へ渡る。
 「獄門島」:昭和21年。
⑥事件解決後、雑誌社から「返事」を貰う。
 届いたのは久保銀三宅と推定される。
 久保宅へ再び来訪した可能性大。
⑦Y氏を訪ね、三晩宿泊。
⑧岡山県K村へ。
 「車井戸はなぜ軋る」:昭和21年。

巻末の解説には、横溝が本作品を
「出来るだけドスぐろい犯罪を
ドスぐろく」書こうとした旨が
記されています。
その通りに、読み終わるとかなり
「ドスぐろい」犯罪であることが
分かります。
これも戦後の混乱期ならではの
犯罪として成立するのであり、
現代ではこのようなミステリを創るのは
難しいのかもしれません。
1947年に「黒猫」として発表され、
翌1948年に現行の表題で
単行本収録された、
金田一耕助デビュー当時の事件、
いかがでしょうか。

(2018.12.16)

〔娘のつくった動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

ぜひチャンネル登録をお願いいたします!

(2024.4.17)

〔本書収録作品〕

〔本書の表紙について〕
アイ・キャッチ画像は
平成31年に復刊された
杉本一文装幀の限定復刻版です。
このほかにも旧角川文庫の
3冊(下の写真)を所有しています。
最初の装幀画・Ver.1は下のものです。

昭和時代の表紙(Ver.1)

その後、このように改訂されました。
これがVer.2となります。
私はこの装幀画が大好きです。

昭和時代の表紙(Ver.2)

ところが昭和53年、
テレビで本作品が映像化された際、
この3つめの表紙Ver.3となりました。

昭和時代の表紙(Ver.3)

そして放送終了とともに
再びVer.2に戻ったため、
Ver.3はきわめて短い期間の
流通となりました。
発行部数が少なかったため、
入手困難となり、状態の悪いものでも
1万円前後で取引されています。

〔金田一耕助の事件簿〕

created by Rinker
¥792 (2024/05/05 16:08:58時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥836 (2024/05/05 16:08:59時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥792 (2024/05/04 17:16:13時点 Amazon調べ-詳細)

〔角川文庫・金田一耕助シリーズ〕

created by Rinker
¥814 (2024/05/05 11:26:10時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥594 (2024/05/04 18:18:13時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥495 (2024/05/04 20:29:06時点 Amazon調べ-詳細)
おどろおどろしい世界への入り口
Dominik DomnoによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

created by Rinker
¥992 (2024/05/04 23:02:46時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA